研究概要 |
今回の研究で以下の2点を明らかにした。1,細胞外マトリックス分解酵素であるMMP(matrix metalloproteinase)及びそれらの抑制因子であるTIMP(tissue inhibitors of metalloproteinases)-1,2の浸潤,髄腔内播種における役割を考察した。手術材料を用い上記分子の産生量,局在を検討し,更に神経膠芽腫細胞株に遺伝子導入し浸潤能への関与を検討した。その結果,悪性神経膠腫の浸潤にはMMP-2と細胞膜貫通型MMP(MT1-MMP)が関与しており,MT1-MMPとTIMP-2の不均衡が神経膠芽腫の髄腔内播種に重要であると考えられた。2,神経膠腫の悪性度が高くなるにつれ,高発現する転写因子Ets-1に着目した。神経膠腫細胞株に,DNA結合能力を有するが転写活性化部位を欠くEtsドミナントネガティブ変異体を遺伝子導入した細胞株を樹立した(U251-DN)。これはurokinase type plasminogen activatorの発現低下をきたし細胞浸潤の低下が起こることを見出しEts-1を主要な浸潤関連転写因子と位置づけた。更に細胞外基質への接着,運動能を検討したところ,ファイブロネクチン上での接着能低下,細胞骨格低形成,細胞移動能低下,focal adhesion kinaseリン酸化低下が示された。そこで接着分子の発現を検討したところ,U251-DNにおいてインテグリンα5およびβ3の発現低下が見いだされた。さらに手術材料を用い,上記分子のmRNA発現量を定量的RT-PCR法により計測した。その結果,インテグリンα5,β3とEts-1の発現量が正の相関関係を示し,神経膠芽腫において両者の高発現が認められた。このことからEts-1が細胞外マトリックス分解酵素のみならず,接着因子の発現調節を担い,神経膠腫の脳実質への浸潤に大きく関与していることが明らかにされた。
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