研究概要 |
子宮内膜症患者腹水中に高濃度存在するサイトカインが本症の病態と増殖・進展に及ぼす影響を検討した.腹水中濃度に相当する50pg/ml以上のIL-6添加は,マウス1細胞期胚の胚盤胞への発生を濃度依存性に阻害した.ヒト精子はgp130遺伝子を発現するが,IL-6とIL-6可溶性受容体を併用添加すると精子運動率は有意に低下した.したがって,IL-6は初期胚発生や精子運動能を阻害して本症の妊孕能低下に関与することが示唆された. Northern blot法により,内膜症間質細胞でIL-6遺伝子発現が観察された.TNF-αの添加はIL-6遺伝子発現を有意に増強した.子宮内膜間質細胞においてはIL-6遺伝子発現は僅かであり,TNF-αによる誘導もみられなかった.内膜症間質細胞培養上清中のIL-6濃度は高く,TNF-αは濃度依存性にIL-6の産生を促進し,1ng/ml以上の添加でその産生は有意に促進された.免疫染色において,内膜症間質細胞にはIL-6蛋白の発現が明瞭に観察されたが,子宮内膜間質細胞においては弱い染色性を認めるにとどまった.腹腔マクロファージと内膜症間質細胞のIL-6産生能を比較検討した結果,培養細胞数当たりのIL-6蛋白産生は同程度であった.IL-6の添加は分泌期子宮内膜間質細胞の増殖を有意に抑制したが,内膜症間質細胞の増殖には影響を与えなかった. ^3H-チミジンの取り込みやMTTアッセイで検討した成績から,IL-8は内膜症間質細胞の増殖促進作用を有することが明らかとなった.TNF-αの添加は内膜症間質細胞のIL-8遺伝子発現を増強し,IL-8産生を増加し,内膜症間質細胞の増殖を促進した.TNF-αの細胞増殖促進作用は抗IL-8抗体の併用添加で中和された.したがって,子宮内膜症患者腹水中に高濃度に存在するTNF-αは,活動性病変におけるIL-8の遺伝子発現と産生を誘導して本症の増殖・進展に関与することが示唆された.以上の成績より,子宮内膜症細胞がIL-6遺伝子を発現し,IL-6を産生することを初めて示し,本症患者における妊孕能低下へのIL-6の関与を示唆した.子宮内膜症細胞におけるIL-8の増殖促進作用と,IL-6に対する応答機構の逸脱が本症の増殖・進展を促す可能性が示唆された.
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