研究概要 |
本研究は歯周靭帯における細胞分化や増殖の機構を解明するための細胞株を樹立することを目的とした.まず,歯周靭帯に存在する細胞のheterogeneityを明らかにし,セメント芽細胞,前セメント芽細胞,歯周靭帯線維芽細胞,未分化間葉系細胞等の分化段階の異なる歯周靭帯構成細胞の採取法を検討した.次いで,細胞株樹立のため,不死化関連因子であるSV-40TやhTERTの導入を試みた.その結果,以下の結果が得られた. 1.連続酵素処理により,歯周靱帯から増殖能や分化度の異なる細胞亜群を採取することができた. 2.ラット歯周靱帯から得た細胞亜群にSV-40Tを遺伝子導入することにより,セメン芽細胞株や歯周靭帯線維芽細胞株を樹立できた. 3.ヒト歯周靭帯から得た細胞亜群にテロメラーゼ関連因子であるhTERTを導入することにより,ヒトセメント芽細胞株およびヒト歯周靭帯線維芽細胞株を樹立することができた. 4.さらに,歯周靱帯由来の良性腫瘍であるセメント質形成性線維腫由来細胞に,SV-40TとhTERTを導入することにより,ヒト歯周靱帯細胞株を樹立することができた. 本研究により,ヒトおよびラットのセメント芽細胞および歯周靱帯細胞株を他の研究者に分与供給することが可能となった.これらの細胞株を用いることによって,すでに骨芽細胞株などを用いた他の研究領域で行なわれているように,標準化された実験系での検討が可能になり,歯周靭帯における細胞分化や増殖機構の解明ならびに歯周組織再生,次世代人工歯根システムの開発,歯牙移植,再植といった歯周靭帯が直接関連する領域における発展がおおいに期待される.
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