研究概要 |
循環系に関連する病態生理学的条件下では,活性酸素フリーラジカルの最初の標的は血管自体の反応性である。交感神経性調節を受けている血管では,伝達物質noradrenaline(NA)が自動酸化,あるいはモノアミン酸化酵素による酸化的脱アミノ化を受け過酸化水素(H_2O_2)を生じるため,酸化的ストレスを受けやすい。環境下に鉄イオンが存在すれば,容易にH_2O_2から生成されるヒドロキシルラジカル(HO^・)によって機能障害が誘起されることは想像に難しくない。 歯髄-口腔粘膜血管反応性に対するフリーラジカルの作用様式を解明する前段階として,血管平滑筋のアドレナリン作動性収縮機構に対するHO^・の作用様式を表面灌流法と電子磁気共鳴(ESR)法を併用することによって検討した。本年度の研究計画は,電気刺激に応答するNA放出とこれに随伴する血管収縮を指標として解析することである。ビーグル犬(体重7-15kg)の摘出腸間膜静脈からラセン状標本を作成し,表面灌流槽を懸垂,95%O_2,5%CO_2により通気したKrebs-Ringer溶液(NaCl 118.2mM,KCl 4.7mM,MgSO_4 1.2mM,KH_2PO_4 1.2mM,NaHCO_3 25.0mM,ethylenediamine-N,N,N',N'-tetraacetic acid 0.5mM,glucose 5.6mM,pH 7.35-7.45)で表面灌流した。標本の両側に設置したプラチナ電極により経壁的電気刺激(ES;9V,2msec,5Hz)を行った。サンプリングは平行灌流によって90分間安定させた後に開始し,各々10分間,計100間行った。ESにより放出された内因性NAに応答する標本の等尺性張力変化を測定し,同時に放出NA量を高性能液体クロマトグラフィーを用いて定量した。これと平行して,サンプリングした灌流液に含まれるラジカルをESR法により検出した。HO^・の影響を検討するため,H_2O_2(1.5×10^<-10>M)とFeSO_4(10^<-10>M)を個別に含んだ灌流液を,標本の直前で反応させ,この反応(Fenton反応)により生成するHO^・を,実験プロトコルに従って30分間曝露した。 Fenton反応由来のHO^・を標本に30分間曝露すると,神経終末から放出するNAに応答した血管収縮反応は顕著に制御され,この制御はカタラーゼ(100U/ml)により阻止された。一方,ES時のNA放出量は不変であった。またH_2O_2およびFeSO_4単独処置では血管収縮反応とNA放出量とともに変化は認められなかった。標本灌流前と灌流後の灌流液中HO^・量をESR検出した場合,灌流後溶液中で有意な減少が認められた。このことは,明らかにHO^・が標本と反応していることを示唆する。以上の結果から,HO^・がシナプス後作用として,NA受容体刺激に連動する反応を抑制することが示唆された。また,Ca^<2+>-free Krebs-Ringer溶液で表面灌流した場合,HO^・との反応によって自発的NA放出量が増加し,このNA放出増加はESと全く解離した反応であった。本研究で得られた結果は,HO^・がシナプス前膜におけるNAの非開口分泌を促進することを推測させる。またCa^<2+>依存性のNA開口分泌はHO^・に対して強い抵抗性を持つことが示唆された。さらに,CGRP繊維が豊富に分布する舌動脈についても,NA放出がどのように修飾されるか検討中である。
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