研究概要 |
血管内皮増殖因子(VEGF)は、創傷治癒において重要な因子である一方、異常な血管新生に付随して起こる慢性炎症にも関わっている.VEGFは,血管内皮細胞の有力なマイトジェンであるが,その他の細胞における活性についてはほとんど知られていない.そこで,VEGF活性をのヒト歯髄細胞において検討した.その結果,ヒト歯髄細胞から産生されたVEGFは,VEGFレセプター,KDRと,c-fosの増加によるAP-1の活性化を介して,オートクライン様式にてヒト歯髄細胞の遊走,増殖,分化を引き起こす可能性が示唆された.さらに,歯髄組織の分解と修復におけるVEGFの役割を明らかにするために,VEGFが,ヒト歯随細胞において,マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs),および,細胞外基質タンパクtenascinを誘導するかを調べた.その結果,VEGFは,MMPsの発現と産生を誘導し,ヒト歯髄組織の分解を引き起こす一方で,tenascinのような細胞外基質を合成し,その修復にも関わっている可能性が示唆された. 次に,慢性歯周炎においても,異常な血管新生が見られることから,歯周組織における血管新生に貢献する調節因子や,調節因子の産生を制御する治療薬に関する研究を行った.マクロライド系の抗生剤ロキシスロマイシン(RXM)は,口腔内の病原菌に対する広い抗菌スペクトルと免疫調節の効果がある.そこで,ヒト歯根膜細胞におけるヒト腫瘍壊死因子(TNF)-αが誘導するVEGFに対するRXMの影響を調べ,さらに,VEGFの発現にRXMが与える影響についても調べた.その結果,炎症性サイトカインTNF-αは,歯周病病変に見られる旺盛な血管新生に関わっており,また,ロキシスロマイシンは,TNF-αが誘導するVEGFの産生を阻害し,、歯周炎やその他のVEGFが関係する慢性炎症の治療に有用である可能性が示唆された.
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