研究概要 |
レーザによる治療では,照射によって歯質を溶かし蒸発させる除去形態をとることから,患部は瞬間的にせよ相当の高温になると考えられる,発熱が大きすぎると,歯髄の温度が上がり,痛みを感じるだけでなくその変質をまねき,時には歯髄は死んでしまう. 本研究は,光ファイバ型2色温度計を用いて,歯にパルスレーザ照射した際のフラッシュ温度測定を行う方法について検討するとともに,歯における熱伝導現象を工学的な立場から検討することにより,レーザによる歯の治療を安全にかつ効率よく行う方法を確立することを目的としておこなった.得られた主な結果をまとめると次のようになる. (1)本温度測定法により,歯のレーザ照射部の温度を計測することができる. (2)照射するレーザエネルギーが一定の場合,短時間に強いレーザパワーを与えた方が照射温度は高くなる. (3)照射するレーザの強さ(パワー)が一定の時,照射時間を長くすれば,照射温度は高くなる. (4)う蝕部と健全部のレーザ吸収率の差から,条件を適当に選べば400℃近い温度差を生じさせることが可能であり,う蝕部のみを除去する治療の可能性が十分にある. (5)歯組織の熱伝導率が小さいため,温度勾配が急となり内部への影響は小さくなるが,エナメル質に比べて吸収率が大きく透光性のよい象牙質では,熱が深部にまで到達するため注意を要する. (6)Er-YAGレーザは水に対する吸収率が大きいことから,大部分が歯表面で吸収され,歯髄に及ぼす熱の影響はNd-YAGレーザよりもはるかに小さく抑えられる.このため,レーザエネルギーを上げて,大きな除去量を得ることも可能である. (7)Nd:YAGレーザで歯の割れが生じる原因について調べたところ,熱応力によるひび割れはEr-YAGレーザでも起こる.また,レーザの照射方法に工夫すればNd:YAGレーザにおいても熱亀裂を防ぐことができる.
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