研究概要 |
【目的】生体調節系(神経系,内分泌系,免疫系)を障害するストレスには様々なものがあるが,生命維持の基本である咀嚼機能の低下やこれを招く咬合異常も,生体への重大なストレスとなりうると考えられる.本研究では,実験的に付与した咬合異常が生体調節系に影響を及ぼすかどうかを明らかにすることを目的に,これらの間に関連があるかどうかに検討を加えた. 【方法】実験の主旨を説明し,同意の得られた健常なボランテイア11名の下顎第2大臼歯に実験的咬合干渉を付与し,付与前(コントロール),付与3日後,および除去3日後にデータの記録,採取を行った.咀嚼系機能については,食品咀嚼時の下顎運動および咀嚼筋筋電図,プレスケールによる咬合力や咬合接触面積,生体調節系への影響は収縮期・拡張期の血圧と,唾液の分泌量と唾液タンパク量を,内分泌系は血漿ホルモンを,免疫学的検査はCD4,CD8などのサイトカイン,リンパ球幼若化反応,NK細胞活性などを血液学的検査により評価した.また,あわせて咬合干渉付与に対する不快な情動反応(11項目)をVAS法で主観的評価を行った. 【結果と考察】咬合干渉付与により,咀嚼リズムは乱れ,咀嚼筋活動は抑制を受けたが,咬合干渉除去により回復した.一方,神経系,内分泌系の血漿ホルモン,同様に免疫系の各評価項目は個人間のバラツキが大きく,実験期日間に有意な変化は認めなかった.しかし,干渉付与下での噛みしめ時の咬合力とACTH,NK細胞活性とCD4/CD8の間などに特徴ある相関を認め,咬合異常に対するストレスへの応答も示唆できた.以上から従来,独立の系と考えられてきた神経系,内分泌系,免疫系が,実はさまざまな形で情報(神経伝達物質,サイトカイン,ホルモン)を交換し,生体調節系として生体内環境を調節していることが推測された
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