研究概要 |
本研究はラセン構造の光学活性ヘリセンで構成される大環状分子の合成と機能に関するものである. ヘリセン部を含有する大環状アミド,大環状アセチレン,および大環状酸無水物の合成法を確立した.環状アミドについては単量体から10量体をすべて合成した.環状アセチレンは3量体から6量体の合成法を確立した.また,環状無水物は3量体と4量体を得た.大環状アミドをスペクトル的に比較して「環効果」を調べた結果,5量体より小さい化合物は,NMRとCDが特徴的であったのに対し,より大きな分子は対応する鎖状化合物と類似の挙動をした.従って,比較的小さいリングサイズの化合物が特異な構造を有し,大きな分子は柔軟であることがわかった.また,単量体のLB膜形成と分子構造との関係を調べ,新規な官能基化された光学活性LB膜を調製した.大環状アセチレンのうち,3量体が有機溶媒中で自己会合することがわかった.この現象を詳しく調べた結果,π共役化合物の会合としては極めて珍しいことに,選択的に二分子会合し高次会合しないことがわかった.(M,M,M)-体は(M,P,M)-体よりも強く会合することから,ヘリセン部の不斉が重要な役割を果たしていることになる. ピレンとポリニトロ化したヘリセンのCT錯体形成について調べた.結晶中では両者が互いに層状に積み重なった円柱状構造を取る.ここで,右ラセン構造のヘリセンは右ラセンから合成したCT錯体は右ラセン構造の円柱を与えた.一方,ラセミ体から合成した錯体では,右ラセンヘリセンは左ラセン円柱を生じ,左ラセンヘリセンは右ラセン円柱を与えた.ヘリセンのキラリティーによって,結晶構造が制御できる可能性が示された.また,ラセン構造同士の不斉認識をCT錯体形成を利用して調べた.その結果,同じ右ラセン構造のヘリセンがより強く相互作用することがわかった.
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