研究概要 |
本研究は,GPSによって計測される列島の変位・ひずみデータを逆解析することによって,列島各地域の大局的地殻変動と地域的地殻変動を決定し,地域毎の応力分布と構成則を推定することを試みたものである.現時点での研究の主要な成果は次の3点として整理される. 1)地殻変動の原因はプレート運動と地域の非均一性である.プレート運動は大局的地殻変動を引き起こし変位増分として観測されること,地域毎の非均一性は局所的地殻変動としてひずみ増分として観測されることを,特異摂動展開を用いて示した. 2)大局的地殻変動はプレート境界のバックスリップによる.数理的技巧を用いずに変位増分からバックスリップを推定するために,スペクトル分解を用いた逆解析手法を考案した.この手法の特徴は,観測可能な地殻変動モードとそれに対応する推定可能なバックスリップの分布モードをGPSの計測精度に応じて決定し,データからこのモードを推定するところにある. 3)局所的地殻変動を推定するために,ひずみ増分に関しては平均ひずみの計算方法を,応力増分に関しては応力逆解析の利用を提案している.平均ひずみの計算方法はGPS観測点が作る三角形領域の平均ひずみを変位の微分をとることなく求めるものである.応力逆解析手法は,エイリーの応力関数を用いることで,平衡状態にある応力成分をひずみから推定する手法である. スペクトル分解を用いた逆解析手法と応力逆解析はともに新しい逆解析手法である.その妥当性は数値シミュレーションによって検証されているが,特に後者については,未知の材料サンプルを用いたモデル実験を行い,手法の実用性も実証している.実際のGPSデータを用いた数値計算を行い,地域毎の広域応力分布・構成則の推定が可能であることを示している.得られた応力分布・構成則は決して非現実的なものではないものの,現時点では,この応力分布や構成則の妥当性は検証されていない.しかし,高密度に計測されるGPSデータを用いた解析として,開発された二つの逆解析手法が有効に働くことは示されており,さらなる研究が期待されている.実際,この逆解析手法に基づく「地殻変動モニタ」が開発中である.地質構造や地震に関するデータとの比較により,解析結果の有効性を示すことと同時に,地殻変動の予測への拡張が計画されている.
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