研究概要 |
本研究は宇和海で起っているアコヤガイをはじめとする魚介類のへい死におけるマリンビルナウイルス(MABV)の直接的・間接的関与を明らかにするための一環として,本ウイルスの感染宿主および環境中での消長を明らかにし,さらに発病を促す環境要因を探ることを目的とした。 まずMABVのアコヤガイ中での感染様式の変化を調べた。その結果,夏季には血球に感染して遺伝子とタンパク質の合成はしているが,感染性の粒子までは完成していない。しかし,秋季以降には肝臓細胞中で大量のウイルス粒子を完成させることが明らかになった。また,海水中からウイルスを濃縮する方法を開発し,宇和海の海水中では秋季以降にMABVが検出されることを明らかにした。 アコヤガイのへい死が起こる直前の餌プランクトンを調査したところ,植物プランクトン総量では豊富だが,アコヤガイが消化できないNitzschiaが増加していた。すなわち,アコヤガイは餌不足になり,体力が消耗したために感染症が発病しやすくなったことが示唆された。 さらに,MABVの自然宿主を解明するために,日本各地の健康な天然貝類におけるウイルスの分布生態を調査した。その結果,ほとんどの試料からMABVが検出され,腹足類よりは二枚貝で感染率が高かった。これは貝の摂食形態の違いに起因すると考えられた。また,貝類のMABVは魚類株とは遺伝子(VP2/Ns領域)中の一塩基で特徴的変異を示すことが見い出された。本研究では淡水飼育アユでのMABV感染が発見され,地理的に近い河川のアマゴでは別種のビルナウイルス(IPNV)が検出された。アユへのMABVの感染は海水が媒体になっていることが示唆された。 以上のように,これまで不明であったMABVのアコヤガイでの感染様式,分布,変異および自然宿主などの一部が解明された。
|