研究概要 |
水資源開発に対する社会的要請の変化に対応して,多目的ダムにおいても治水,灌漑,都市・工業用水等の従来型の目的の他,生態系の保全,レクリエーション等を目的とした環境用水を新たな目的として加えることが必要となってきている.多目的ダム事業の費用配分法に関しては,実務的な検討が為されてきた.また,ゲーム理論に基づいた理論的な研究成果も多数蓄積されている.しかし,環境用水の確保を目的とした主体の参加した多目的ダム事業においては,(1)容量非対応型の主体の参加,(2)提携の外部性,(3)便益を考慮した費用配分の必要性,(4)便益の自己表明に伴う非効率性,(5)複数の代替案が想定されている場合の費用配分問題,等の,これまでの多目的ダム事業において想定されていなかった状況が発生し得る.本研究では,費用配分問題をゲーム理論により定式化して分析を実施し,得られた知見に基づいて,環境用水を考慮した多目的ダム事業のための慣用的費用配分法の改善の提案を行った.まず初めに,容量非対応型の主体の参加するダム事業を想定し,各ゲームの費用関数特性に対応したダム事業の費用関数の性質を明らかにした.また慣用的費用配分法の適用可能性の評価を行った.第二に,外部性を適切に反映した費用配分法について検討を行った.その際,既往の公正配分概念を外部性のある場合へ拡張するとともに新たな費用割り振り法を提案した.第三に,2主体によるダム更新整備を想定し,純便益配分が必要な状況で,便益に関する情報の自己表明に基づく純便益配分メカニズムの下での社会的な効率性の検討を行った.最後に,水力発電用ダムの更新整備に伴うプロジェクト選択問題を対象に,便益に関する情報が不完備であり,かつ主体間でプロジェクトに対する選好の分裂性向が高い場合のためのコンフリクト調整メカニズムを提案し,不完備情報ゲームの理論を用いてその有効性について検討した.
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