研究概要 |
この研究では,実際に高強度鉄鋼材料を使用する際に問題となる水素脆化現象をより詳細に検討するために,金属材料表面に局在化した水素分布を可視化する手法である,局部水素検出用走査型レーザー電解顕微鏡を開発することを目的とする.この方法は,溶液中で金属材料に侵入・脱離する水素の挙動をin-situに検出できることにその特徴がある.本装置の特徴を次に示す.光ファイバーを通して光学顕微鏡に導入し,対物レンズで集光したArレーザーを反応槽に設置した試料に水溶液層を通して照射する.試料は二つの反応槽ではさまれている.ひとつの反応槽には酸もしくは中性溶液を導入し,電気化学反応によって水素を試料に導入する.他方の反応槽にはアルカリ溶液を導入し,試料にアノード電位を印加することにより,試料内を拡散した水素がこの面で酸化されるときの電流を測定する.集束されたレーザーが水素検出面に照射されると,その部位の水素酸化反応が熱活性化され,反応電流増分として観測される.反応電流増分がその部位の水素濃度に依存する場合,集束レーザーを試料面に二次元走査させると,対応した反応電流増分の二次元分布すなわち水素濃度分布が可視化される.本研究では,このシステムを構築し,次のことを明らかにした.レーザー光を光ファイバー端面から水素検出面全面に照射した場合,水素検出面での水素到達量に対応する水素検出電流の増加とともに,レーザー光照射による応答電流が増加し,動的な水素侵入状態での水素検出面での水素量を定量的に把握できることを明らかにした.さらに,レーザー光を顕微鏡に導入し,集束させた状態で水素検出面に照射すると,レーザースポット径が数十μmであるにも関わらず,レーザー応答電流が観測され,水素検出電流の増加とともに増加することが確認された.試料の水素検出面の一部に遮蔽材を設置し,遮蔽材と水素検出面との境界近傍に対してレーザー光の一次元走査を行うと,遮蔽材上に対して水素検出面上でのレーザー応答電流が増加し,水素分布の一次元分布の可視化が可能であることを明らかにした.
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