研究概要 |
平成11年度には,銀杏種子,トマト果実、カボチャ子葉,及びタバコ培養細胞からエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(ENGase)を精製し,それらの基質特性を始めとする詳細な酵素学的諸性質を明らかにした。その結果,約6万の分子量を有するこれら植物エンドグリコシダーゼはpH6-6.5に至適pHを有し,α1-2結合マンノース残基を有するハイマンノース型に対して強い活性を示すこが明らかになった。次いで平成12年度には,カボチャ子葉を用いてハイマンノース型糖鎖の遊離を司るENGaseの細胞内分布解析を行い,本酵素及び遊離型N-グリカンが細胞質に存在することを明らかにした。また,数種のENGase(トマト,タバコ)については,部分アミノ酸配列をもとにして遺伝子クローニングを進めてきた。その結果,平成13年度迄に,アラビドプシス酵素については遺伝子クローニングに成功し,大腸菌による大量発現系を確立することができた。この組み換え酵素は,種々植物細胞から精製してきた酵素と同じ酵素学的性質を示すものであった。植物ENGaseの生理機能を考える上で,本酵素の内在基質を明らかにすることも重要な課題であるが,平成13年度迄に得られた本酵素の基質特異性及び細胞内分布解析の結果から,本酵素の内在基質はフォールディングの完了した,いわゆる成熟糖蛋白質に結合した糖鎖ではなく,オリゴ糖鎖-脂質中間体あるいは新生糖蛋白質の品質管理系で排除され生じた糖ペプチドに結合するハイマンノース型糖鎖である可能性を提示した。 また,平成11年度〜13年度にかけては,植物細胞内に遍在する遊離型N-グリカンが蛋白質の4次構造形成あるいはリフォールディングにおいて重要な機能を担っていることを明らかにした。この結果は,遊離精鎖の植物の成長促進活性に関与する新たな機能発見となった。 平成14年度には,細胞質に存在するハイマンノース型遊離糖鎖の分解に関与すると思われる細胞質α-マンノシダーゼ(C-MANase)を登熟期種子から精製し,(1)酵素がコバルトイオンによる基質特異性のコントロールを受けること,(2)還元末端にGlcNAc残基が1分子のみを有するENGase消化物に対して強い活性を示すことを明らかにするとともに,(3)N-末端配列及び内部部分アミノ酸配列を明らかにし,遺伝子クローニングを開始した。 また,平成14年度はゲノムプロジェクトが進行中のイネに注目し,イネ細胞からもENGaseを単一精製後,その内部アミノ酸配列を基に遺伝子クローニングを完了した。大腸菌でのイネ酵素の発現系も確立することができ,現在,ENG-ase遺伝の発現を制御したトランスジェニック植物の作成を行っている。精製酵素のアミノ酸配列を基にして,真核生物由来のENGaseのクローニングと発現系の確立に成功したのは,我々の研究室が初めてであった。
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