研究概要 |
生体分子間相互作用解析システムBIACOREを用いて,精製P.gingivalis線毛の様々な宿主由来タンパク質との結合反応を解析した結果,線毛は唾液タンパク質(高プロリン含有タンパク質および糖タンパク質,スタセリン),フィブリノーゲン,ヘモグロビンと代表的な細胞外マトリックスタンパクであるビトロネクチン,ラミニン,トロンボスポンジン,I&IV型コラーゲン,フィブロネクチン,エラスチンに対して特異的結合能を有していることが明らかとなった.さらに,これらの結合の親和性は,抗線毛抗体との結合反応に準ずる高い親和性を示した.細胞間接着因子であるヒトインテグリンαVおよびβ3のcDNAをそれぞれ組み込んだベクターをCHO細胞へ導入し,インテグリンαVβ3高発現細胞株を樹立した.P.gingivalis線毛(+)株は,線毛(-)株に比してαVβ3高発現細胞株への有意に高い付着能を示し,線毛がインテグリンα_Vβ_3に対して親和性を有することが示された.精製線毛も高発現されたインテグリンαVβ3に対しても有意な結合親和性を示し,さらにビトロネクチンとインテグリンとの相互作用は線毛添加により顕著に阻害された.線毛はビトロネクチンとその代表的なレセプターであるインテグリンα_Vβ_3の両者に対し顕著な結合能を有しており,ビトロネクチンとインテグリンα_Vβ_3との相互作用を強く阻害することが示された. さらに,線毛と宿主タンパクとの結合に際し,結合阻害活性を有する物質を検索した結果,高プロリン含有タンパク質由来の21残基よりなる合成ペプチドPRP-Cが顕著な結合阻害効果を示した.また,食用天然物抽出物であるプロタミンも同様の阻害能を有していたばかりではなく,P.gingivalisアルギニン特異的システインプロテアーゼの活性阻害効果を示した.また,プロタミンは,ヒト線維芽細胞のDNA合成を3倍にまで促進し,顕著なマイトージェン活性を示した. 本研究の成果は,歯周炎の惹起から歯周組織の破壊に至る一連の炎症過程に於けるP.gingivalis線毛の果たす役割を明らかにするとともに,P.gingivalisが線毛を介して発揮する病原性を,唾液由来ペプチドとプロタミンが有意に阻害することが示され,今後の歯周病予防法において,有力な創薬研究の対象となると考えられた.
|