研究概要 |
(1) 現有設備の超電導コイルにより4テスラの強磁場を大空間(直径40cm,長さ40cm)に発生させた.この中に真空容器を設置し,その一端からスパイラル状のタングステン電極を加熱することにより発生させた熱電子を,その前面のグリッドで加速することで電子ビーム及び直流放電アルゴンプラズマを生成した.一方,昇華用オーブン内に導入されたフラーレンは,オーブンを約350℃に加熱することによってガス化され,そこに電子ビームまたはアルゴンプラズマが照射されることで電離し,フラーレンイオンが生成される.なお,今回は質量分離を行う観点から,C_<60>,C_<70>混合フラーレンを用いた. (2) まず,高周波電場を印加しサイクロトロン共鳴の原理を利用する質量分離法が,極端に高質量のフラーレンに適用できるかを確認するため,上記の原理に基づくオメガトロン質量分析器を用いてフラーレンイオンの検出を行った.その結果,最大2.4テスラまでC_<60>,C_<70>イオンに相当する質量の位置に独立したスペクトルピーク信号が検出され,しかもそれらの半値幅から算出される質量分解能が磁場強度の二乗に比例して増加していくことが観測された.これらの結果は,理論的に算出される質量分解能にほぼ一致しており,この質量分離法がテスラ級の強磁場下で高質量のフラーレンにも適用可能であることが明らかになった.また,テスラ級の強磁場が質量分解能の向上という点で非常に有用であることが示された. (3) 次に,この質量分析器を発展させ,フラーレンの大量分離・精製を行うことが可能であるヘリカルアンテナ型質量分離装置の開発を行った.このヘリカルアンテナは大電力の投入が可能であり,また高密度のフラーレンプラズマ中へ高効率に高周波電磁場を浸透させることができる.この装置で上記混合フラーレンの質量分離を行った結果,オメガトロン質量分析器の場合と同様に,C_<60>,C_<70>イオンをそれぞれ分離して検出することに成功し,さらにアンテナへの投入電力に比例して検出電流の強度が増加することが明らかになった.これは,フラーレンイオン分離・精製量の向上を意味しており,この質量分離装置の実現可能性を実証した.
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