研究概要 |
初年度(1999年度)は,全体として計画された『エウデモス(魂について)』『プロトレプティコス(哲学への勧め)』『哲学について』等のアリストテレス初期の対話篇と見られるものうち,『エウデモス』および『哲学について』を中心として,一方で,初期アリストテレスにおける「神」概念の解明を行ない,他方では,論証・論理に関する中期・後期著作の思想との比較のための基礎作業を行ない,演繹推理(シュロギスモス)とも帰納推理(エパゴーゲー)とも区別されるアパゴーゲーの重要性とそのアリストテレスにおける限界を明らかにした.次年度(2000年度)は,引き続き,『哲学について』および『祈りについて』の断片資料にもとづいて,「神」概念を手がかりに,初期アリストテレスの対話篇再構成の問題点として,後代の著作者の先入観を取り除くことの困難さを,特に,キケロの場合について明らかにした.また,同時に,ディアレクティケー(問答法)とアリストテレス自身の哲学史的記述との関係を指摘し,最初期の哲学者についてのアリストテレスの記述は,必ずしも,通説通りではないことを明らかにした.最終年度(2001年度)は,『コルプス(講義録・著作集)』に属する『トピカ』等におけるディアレクティケー(問答法)が,プラトンとは異なって,アリストテレス独自のものとなるのは,アリストテレスがイデア論に対してどのような態度をとるかという点にかかっているという問題設定自体は,イェーガーの説が妥当するけれども,実は,イェガーの解釈に反して,初期アリストテレスにおいてすでに,ペイラ(吟味)とエレンコス(論駁)という機能に関しては,『コルプス(講義録・著作集)』と同様のディアレクティケー(問答法)を見て取ることができた.これにより,初期アリストテレスの思想において,ディアレクティケーの意味と方法を解明することが重要であることが明らかにされた.
|