研究概要 |
「心理主義」という用語が初めて用いられたのは1866年のこととされる.J.E.エルトマンが,その著『哲学史概説』においてF.E.ベネケの哲学に対し,この呼称を用いたのである.19世紀末から20世紀初頭にかけて争点となったのは,いわば「論学的心理主義」の立場であった.G.フレーゲは,その生涯にわたって徹底して反心理主義の立場を貫いた.心理主義的な論理学者は現実的でないものはすべて主観的でなければならないと仮定している.だが,フレーゲはこれを否定する.彼は,「客観的なるものの第三の領域」が存在するという前提から出発する.数や概念はこの第三の領域に属する.この客観的で非物理的な存在は,それを把握することのできるあらゆる理性的存在者にとって同一である.数学や論理学において,われわれは相互主観的な合意を形成しうる.客観的存在の領域はこの合意形成の可能性に依存する.換言すれば,それは「理性」への依存である.だが,フレーゲが「理性の哲学」について語ることはなかった. 他方,一般に『算術の哲学』で心理主義の立場をとっていたフッサールは,フレーゲの批判に呼応するかたちで,『論理学研究』において反心理主義の立場に転じ,その後,自らの現象学を展開したとされる.だが,見方を変えれば,フッサールの探究は,心理学と論理学に対して自らの哲学をどう位置づけるかによって変遷せざるをえなかったともいえる.フッサールの哲学の理論的な内実は,『論理学研究』以前から提示されていた理論の着実な展開と見なすことができる.一見,矛盾しているかのようにも見えるこの二つの見方が生じるのは,前者が,いわば哲学内部の理論に定位しているのに対し,後者は哲学と心理学との関係に定位しているためである.フッサールの哲学は,心理学に対する自らの位置づけを変更しながら,それを通じて,理論を発展させていったということができる.
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