本研究では個性化の理念自体を、西欧の人間観に深く根ざし、そこから歴史的に生成してきた独自な人間学として捉え直す。また考察対象を今世紀の深層心理学から溯りつつ、18世紀ドイツの自然学の伝統から改めて照射しなおしてみる。すなわち観念論ならびに自然哲学の知的伝統を背景としながら、個性化思想が生成されてくる過程のダイナミズムを実証的に析出してみる。その具体的解明のために、ゲーテが創始した形態学-モルフォロギ-の知、また18世紀の知的遺産を継承したW.デイルタイによる解釈学の革新-精神科学の構築-、そして20世紀初頭の精神分析運動のなかで改めて蘇生してくるネオ・ロマンティークの発露としてのユングの分析心理学、等々の問題群を取り上げ、それらの思潮に通底している個性化思想の脈絡を実証的に検証していく。すなわち形態学と解釈学によって構成された有機的な座標系のなかで、個性化思想の歴史的な生成過程を実証してみる。 本研究では、上記の一連の問題群を主に以下の四分野と複合させながら、分析を試みる。(I)ゲーテ自然学-特に形態学-を基軸とした個体性形成モデルの考察、(II)形態学と解釈学との邂逅、(III)ヘルダー、ディルタイ、ユング等々に見られる類型論思想の本質とその可能性。(IV)その生命思想からの読み替え。これらの分析をとおして、個性化思想の生成のダイナミズムと構造を出来るかぎり内在的立場から重層的に解明してみる。いわば形象(形態)-意味(解釈)-生命が取り結ぶトリアーデを基軸として、個性化思想の本質を際だたせてみる。
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