研究概要 |
マカクザルの視覚性認知記憶や連合記憶の長期記憶は、下部側頭葉皮質IlT野)TE野や内側側頭葉(MTL)と密接に関係することが知られている。我々は、先の研究(大沢ら,1994,1995)で術前に視覚性連合記憶課題を長期間過剰訓練したサルのTE野損傷は、過剰訓練しないサルと比べ記憶障害が有意に軽減されること、更に障害が軽減されたTE野損傷サルに後方のTEO野を追加摘除しても殆ど記憶障害が見られず、TE野損傷後の記憶機能回復がIT野以外の視覚領野の関与で行われたことを明らかにした。本研究の目的は、TE野と密接な神経線維連絡を持ちMTL記憶システムに含まれる海馬傍回後部TF/TH野が視覚性連合記憶機能代償(再学習)に関与する領野であるか否かを明らかにすることであった。実験にはマカクザル8頭を用い、術前の視覚性記憶課題の過剰訓練の有無に対するTE野とTF/TH野の同時損傷効果を調べ、先のTE野単独損傷効果と比較検討した。訓練はWGTA装置で行い、記憶課題には各々主として認知記憶と連合記憶に関係する単式物体弁別課題(S課題)と複式物体弁別課題(C課題)を使用した。術前にSとC課題の初学習訓練のみ行った非過剰訓練(NOT)群5頭と初学習完成後更に両課題を合計9,600試行過剰訓練した(XOT)群3頭に、TE野とTF/TH野の同時摘除手術を施行し損傷効果を調べた。その結果、(1)NOT群の同時損傷は、SとCの両課題で先の非過剰訓練のTE野単独損傷に比べ重度な障害を発現した。(2)XOT群は両課題でNOT群より軽度な障害しか示さず、過剰訓練効果を示した。(3)しかし再学習後の保持テストでは両群間に殆ど差は見られなかった。以上の所見は、TF/TH野が術後早い段階での視覚性連合記憶機能代償(再学習)に関与するが再学習訓練の継続により他の視覚関連領野の関与が起こることを示唆する。
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