研究概要 |
本研究は,最近ようやく本格的な対策が声高に叫ばれるようになった小学校の,いわゆる「学級崩壊」現象解決の一端を担う,学童の学校適応過程に関する知見を明らかにすることを目的とした。とりわけ小学校入学時から2年生に至る初期の適応過程において,彼らが学校文化,教室行動文化(慣習や規則)の理解,獲得過程を通して,どのように自己制御的な行為を身につけていくのか,という点に焦点をあてた。また,方法論的には,学童の認識や行動の形成・発達を子どもの立場からのみではなく,社会文化的な環境要因との相互作用の立場から検討する「社会文化的アプローチ(Wertsch,1991,1998)」を適用,そこで強調されている"社会文化的に組織された文化的道具に媒介される子どもの行為のあり方"を分析単位とし,適応過程そのものを個体発生的視点(入学時から一年間の縦断的変化)および微視発生的視点(短期の学習過程上の変化)から描写して,質的に検討した。その結果,学校という文化・制度のなかで適応していくために,児童は多様なルールや行動様式,知識体系などの文化的道具を獲得することが要請されていることが明らかとなり,それが児童の環境適応への問題を引き起こすひとつの原因ともなっていると考えられる。しかしながら,文化的道具の獲得は,教師および他の子どもとの社会的相互交渉のなかで行われ,道具に対する認識のあり方も道具使用も,学習経験や慣れによって変化していく。そしてその過程で、文化的道具の導入時にみせる「習得」的学習と、それに対する葛藤(不満や反発)から自分たちなりのものに変形して創造的使用を行う「専有」的学習の両側面が立ち現れ、これらが統合的に働いて児童の環境適応や発達が達成されていくことが示唆された。このような諸結果から,あらためて人間の発達や教育,学校適応の問題、特に、「習得」的学習と「専有」的学習の統合化について考えることには,大きな意義があるものと考えられる。
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