研究概要 |
本研究は,感覚運動的な思考の段階にある幼児期の子どもが,一つの課題を介して他者と関わる際に,その相互作用の過程で,自己の振る舞いや思考を対象視できるようになる発達メカニズムを解明する研究の一端として,思考の持つリズム性や身体の持つリズム性あるいは感情(情動)が持つリズム性に焦点を当て,子どもの認知発達にとってリズムの持つ意味や機能の本質について検討していくものである。まずはじめに理論的問題として,著者がどういう研究の枠組に立って研究を進めているのか,「相互交渉リズムと自己制御リズムの統合プロセスを分析していくための理論的背景」についてまとめた。次に,幼児期の子どもを対象に行なった実験的研究を3つの観点からまとめた。最初の実験では,言語化(自己の認知的な活動をコントロールしていくため自分で自分に向けられた掛け声や意味のある言葉)の持つリズムと意味に注目し,それぞれが自己の活動を認知的に制御していく上で,あるいは他者と同じ動作を共有していく上でどのように機能しているかを比較検討した。その結果,(1)年少児の子どもほど,言語化のリズムよりも意味が自己の課題解決プロセスに効果的であることが示唆された。2番目の実験では,普段生活の中でリズムはどの程度意識の対象になっているのか,感覚運動的(身体運動的)な課題と認知的な課題を組み合わせて,子どもの思考に現れるリズム性と身体に現れるリズム性の発達的な関係について検討した。その結果,(2)子どもの持つリズム性は,身体運動動作よりも認知的な解決課題において出やすいことが示唆された。3番目の実験では,お遊戯場面にみられるような子どもたちのリズミカルで生き生きとした活動を支えているものは何かという観点から,認知・情動的体験を伴ったイメージ作りがリズミカルな相互作用にどのように影響しているか,またそこに大人-子どもの場合の相互作用と子ども同士の相互作用の特徴はどのように異なるのかという問題について検討した。(3)その結果,情動的な体験をイメージさせられるほど,子どものリズミカルな協応動作は促進されること。(4)大人との場合とは,異なり,子ども同士の相互作用では,まず言語化が優位な相互作用過程が進行することが示唆された。
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