研究概要 |
本研究は,日本の南西諸島域における自然生態系が地域の共同体によってどのように生業活動に持続的に利用されてきたか,その実態の把握と,そこにおいて平等原理がどのように,そしてどの程度作用してきたかという問題について,生態人類学的および環境民俗学の視点からアプローチすることを目指した。データ収集のため,沖縄県知念村久高島および八重山諸島,台湾屏東県三地門において現地調査をおこなった。また,比較研究の観点から,中国海南島などの諸地域の既存のデータの分析と文献研究をおこなった。 久高島においては,過去から現在までの生業の変遷の把握と,生業活動を支えた自然環境の把握,島民の自然認識についての調査,信仰組織や社会構造の把握とその変容に関する調査をおこなった。まず平等主義的意図の明確な地割り制度についてデータの収集と分析をおこなった。また,特異な生業であるエラブウナギ漁の歴史と現状について調査した。自然認識に関しては,島内の地名の収集と分析をおこなった。また,島人の全員参加による強固な信仰組織の歴史と現状について調査した。また,近年の過疎化進行や社会生活の変化,そして島おこしへの住民のさまざまな取り組みについて調査した。 以上のような調査によって,これまで暗黙のうちに生態系の持続的利用に関わってきた平等原理の機能が浮かび上がってきた。すなわち亜熱帯海洋性気候に位置する島嶼という環境の自然特性は,資源の限定性と多様性を特徴としている。したがって,自然環境の利用も集約的な利用ではなく,限定的で分散的な利用でなければならない。そのような利用様式の実現においては,さまざまな社会的規制が要求される。そこにおいて平等性は多彩なかたちで現れ,いずれも,深く生業と社会を支えていることがわかった。
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