研究概要 |
二つの文章があるときに,その間が近いか遠いか,その距離を,文章に用いられている語彙を通して測定しようとする。もって,文章の特徴を語彙からとらえようとする。文章を古典文芸作品に限定してその問題を討究するのが,研究の目的である。 二つの作品の語彙の距離を測定することになり,そのためにいくつかの計算方法が提案されてきた。それを紹介・検討する。この研究で特に検討するのは,宮島達夫の類似度である。一一の見出し語について2作品の使用率を見て大きくないほうを選び,見出し語すべてについてそれを累積する数値である。この類似度は作品の語彙全体についてのものであるが,その数値が何によってもたらされているか,本研究で探る。語種・品詞・頻出といった観点から,あるいは無作為に,語彙の一部を取り出し,それについて類似度を計算する。類似は,多様な部分部分に相似的に存在していて,その集積として全体の類似度が現れる,ということを指摘することができる。 類似度は,古代文芸作品を対象として基礎づけられた。その例えば現代語への応用もあるが,本研究では,中世文芸作品,特に日記「たまきはる」「とはずがたり」「竹むきが記」および随筆「方丈記」「徒然草」について展開することをこころみる。古代文芸作品との類似度,あるいは中世文芸作品間での類似度を計算すると,中世と古代とは全体的に渾然としていることが知られる。 中世文芸は,少なくとも日記・随筆については,語彙の類似の観点から捉えると,古代の延長上で十分に特徴づけられるということである。 中世語彙と古代語彙とを扱う上では,本動詞の補助化など,容易には調整し難い問題が控えている。今後,その解決を図らなければならない。
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