研究概要 |
語彙拡散理論と生物理論の類似性を,英語の史的発達からのデータに基づき,脳の進化と言語変化の共進化の観点から,(1)語義変化,(2)続語変化,(3)音韻変化について考察した。 (1)Thesauras of Old English(1995),Roget's International Thesaurus(1995)に基づき,語義変化はある意味領域において,多数の同義語間の競合と選択の結果起こることを実証した。更に人間の認知能力と記憶の限界から,学習する語彙数が限られたものであることが原因であることを明らかにした。また神経ネットワークを用いて,語の出現,追加,削除される動的なシステムの構築を試みた。 (2)後期古英語の動詞,目的語,目的語に後続する関係節の語順に基づき,語順変化は,関係節の生成と,認知の困難をひき起こす中央埋め込み文との関連において起こることを実証した。更に人間の脳の前頭葉前部が司る連続的関係が,語順に顕現し,知覚上,記憶上の制約が原因で,ある種の語順が避けられることを明かにした。また神経ネットワークを用いて,中央埋め込み文により生ずる回帰的非整合性が言語の習得に影響を及ぼすことを示した。 (3)進化計量法を用いて,知覚的制約と生成的制約に適合しながら,ランダムな状態から母音体系がどのように進化したかを明らかにした。更に語彙共同体での発音の変異,未解決の古英語,中英語の低母音の音価についても予測可能なことを示した。
|