研究概要 |
慣用句研究は,近年のドイツ言語学においてひとつの独立した,しかも盛んに議論されている研究分野である。最近の慣用句研究の関心は,対照言語学的視点から異なる言語の慣用句を比較検討することに向けられている。本研究は,従来の慣用句研究においてほとんど分析されていない日独語を比較対照し,日独語の慣用句を語彙,統語構造,意味等,様々なレベルにおいて分析し,両言語の慣用句にみられる個別的・普遍的特徴を明らかにした。日本語とドイツ語は,言語類型論的に大きく異なる発達過程を経た言語ではあるが,本研究により,両言語の慣用句には,さまざまな共通点のあることが明らかとなった。従来の対照言語学的立場の慣用句研究では,英語,フランス語,ロシア語,ドイツ語といったヨーロッパ系の言語どうしが分析対象とされてきたが,本研究によりアジア系の言語も考察対象に加えられたことから,対照言語学的立場からの慣用句研究の領域を広げることができたといえよう。 具体的分析方法としては,慣用句としての意味を成立させているふたつの要因,即ち慣用句の構成要素の比喩的意味と慣用句の具象性を分析の基準とし,比較検討がなされた。具体的には,慣用句の構成要素である語彙が日独慣用句の中でどのような比喩的意味を表しているか,また慣用句の意味が成立する前提として,日独慣用句にはどのような具象性が認められるか,更にはこれらの要因がどのように関与しあって慣用句としての意味が生じているかについて,個々の慣用句の分析が行われ,言語構造や言語の発展過程において大きく異なる日独語ではあるが,慣用句においては,さまざまな普遍的特徴の認められることが明らかにされた。
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