研究概要 |
「対照意味論」という旗印の下に、文意味論の構成とその中での意味の分岐を情報の観点から言語対照的に探求しようとする当プロジェクトでは、アスペクト・テンスに関する「状況構造理論」を語彙理論,文意味論,談話意味論のそれぞれの方向に発展させることができた。 語彙理論のレベルでは、語彙意味の構造化に基づいた項構造との関連が問題となった。特に状況構造理論が積極的に認める、文レベルにおけるアスペクトの非特定性(underspecification)を定める語彙的な性質に分析は集中した。第一に、従来副詞、強意語,数量詞、量化詞などとして扱われてきた語を用いて叙述の項としての事象についての微細な分析を行うことで,事象と対象物の動詞アスペクトへの関わりを明確化し,これをintegrativeかdistributiveかという叙述方法一般の性格に結びつけた。第二に、状況構造理論を動詞アスペクトについて形式意味論的に具体化させることで,上で述べた事象と対象物の動詞アスペクトへの関わりを語彙意味論で経路と呼ばれるものに結びつけて説明した。語彙のレベルにおける状況の構造化の問題を程度(degree)と量化の問題として統一的に扱い,動詞の語彙に含まれる動的性格を定式化したのである。この形式化の利点は、過去分詞の時間的解釈と静的アスペクト,結果構文と移動構文の付加句を明瞭な形で統一的に扱えることである。この問題解決の過程で、副詞、強意語のもつ量化的側面も明らかにされた。第三に、完了形における分詞と助動詞の項構造と意味上の役割分担も同じ枠組の中で分析できた。特に完了の助動詞としてBEとHAVEを使い分けるタイプの言語,特にドイツ語においてBEとHAVEの語彙的統一性を大きく認める分析を示した。 文意味論のレベルでは、第一に,文レベルにおけるアスペクトの非特定性(underspecification)を明確に示し,文レベルにおけるアスペクトが実用論的に決定されていることを示した。またその関連で,いわゆる浮遊量化詞の解釈が、その内部構造と情報構造的位置によって決定されることを見た。特に意味論的に見て広い範囲で観察される意味論的抱合(semantic incorporation)が,ここでも役割を担っていることを示した。また、アスペクトと時制の接点という観点から,日本語の複文における時制解釈をHPSGの枠組で示した。日本語の時制に相対時制の意味を付与してやることで,統一的な説明が可能になることを主張した。
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