研究概要 |
本研究(研究期間平成11-12年度)の目的は、「ポーズ挿入」に伴って現われる「調音の時間構造の変化」の実態を音響学的に解明することである。先行研究(垣田,1998;Kakita,1999)により、日本語の文中にポーズが挿入されると、ポーズに先行する"local"な部分だけでなく、発話全体を通した"global"な時間領域にわたって、発話速度に変化が現われることがすでに報告されている。 平成11年度は、前者の"local"な領域におけるいわゆるpre-pausal lengtheningの現象に焦点をあて、モーラレベルおよびセグメントレベルでの調音の時間構造について解析を行った結果、pre-pausal lengtheningの影響は、ポーズに先行する複数のモーラにわたって観察されること、ポーズに近いモーラほどpre-pausal lengtheningの度合が大きいこと、そして、pre-pausal lengtheningにおける実質的な伸長は主に母音が担っていること、などの点が新たに明らかになった。 平成12年度は、話者数を10名に増やし、さらに詳細にわたって定量的な分析を行った結果、日本語におけるpre-pausal lengtheningの影響は、(1)多くの話者についてはポーズに先行する1モーラに顕著に現われるが、2モーラに渡って影響がみられる話者もおり、個人差があること、(2)いわゆる"progressive lengthening"(ポーズに近い/遠いモーラほどpre-pausal lengtheningの度合が大きい/小さい、という現象)についても、"progressiveness"に個人差がみられること、などの点を明らかにした。 なお、本研究の成果は、平成11年9月にドイツ・ゲルメルスハイムで開催された第34回言語学コロキウムにおいて、また、平成12年9月にオーストリア・インスブルックで開催された第35回言語学コロキウムにおいて発表した。
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