第一に、GHQ文書における日本税制関係資料の整理を行った。これについては、ファイル毎の資料整理を行い、後掲別紙の目録を作成した。当該資料は、今後も戦後税制・税務行政を検討する場合に有力な手がかりをあたえるものであり、それについて基本的な整理を行った。 第二に、当時の税務行政改革について実質的にイニシアチブをとったのがハロルド・モス(Harold MOSS)氏であったことを明らかにした。米国に在住するモス氏について個人的コンタクトをとり、インタビューに基づき補充的な資料を入手した。モス氏の功績は、第一に、GHQ内部の組織改革であり、財政課(finance division)から内国歳入課(internal revenue division)を独立させたことである。財政課は、歳入と歳出(予算)の双方を担当していたのに対し、モス氏は税制の独立性を主張した。戦後税制・税務行政が税収額の問題としてではなく、その質という観点から検討されることになった。第二に、日本政府の行政機構に関して国税庁を創設させたことである。これは、米国IRSをモデルにした半独立的・専門的税務行政機構の創設を意味した。第三は、シャウプ税制調査団の招請を企画したことである。モス氏がこれらの一連の大改革をなしえた背景として、フィリピン時代以来のマッカーサーとの親交があったことも明らかにした。 第三に、昭和24年に発足した国税庁のモデルとなった米国内国歳入庁(IRS)について基礎的な理解を得た。これは、税務行政に関することであるが、一方で米国の税務行政組織自体も理想的なものではなく、問題を抱えた存在であって、第二次大戦後の1952年に抜本的な組織改正が実施されたことが明らかになった。換言すれば、第二次世界大戦後においては、所得税の役割の拡大がおこり、これに対応するために、日米共に組織改革を必要としたのであった。
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