研究概要 |
建築基準法上の私道は公的規制を強く受けている点で公道に近い性格を有するが,このことは沿道居住者に私法上の通行権が認められることを意味するものではなく,私道の通行は単に公的規制を受けたことの反射的利益にすぎない,と伝統的に考えられてきた。一方,規制違反の行為が生じた場合には,沿道居住者は特定行政庁を相手に是正措置命令や禁止・制限措置命令の発動を請求し得るが,こうした請求がなされたところで,特定行政庁は常にこれに応ずることが義務づけられるものではなく,この発動は特定行政庁の自由裁量行為であって,沿道居住者はかかる命令の発動を促すことができるにすぎない,とも一般に解釈されてきた。 そこで,本研究は,まず第一に,沿道居住者による妨害排除請求の可否に関する,これまでの解釈状況および実務的取扱いについて具に分析する作業を行った。次に,(1)公的規制と私道所有権の関係,および,(2)公的規制と通行利用の関係について考察した。最後に,以上の考察を踏まえたうえで,私道所有者の通行妨害を相手に沿道居住者はいかなる場合に排除請求できるか,その法的根拠は何かについて試論を展開した。 本研究は,結論として,安全および衛生という生活環境の保全という観点から,私道敷権利者の所有権は制限されることを積極的に容認すべく,沿道居住者には自衛手段として妨害排除請求権の行使が許されてよい旨の解釈を明らかにした。
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