平成11年度では、理論モデルを構築した。そのモデルでは、預金保険が存在する状況下で、流動性危機に直面している銀行経営者の資産選択等に関するモラル・ハザード行動や銀行経営者に報酬契約を提示する銀行株主のモラル・ハザード行動を、主として考察した。その結果、銀行経営者への報酬契約、公的資金投入規模、および規制当局買い入れ証券のデザイン等によって特徴づけられる均衡配分が、モデルの基本的なパラメーターにどのように依存するのかを明らかにすることにより、政策的なインプリケーションを得ることが可能になった。とくに、劣後債や優先株による資本注入のみならず、金融危機に直面している銀行を国有化してしまった方がいいようなケースも、理論的に明らかにした。平成12年度では、平成11年度に構築したモデルを使ってシミュレーション研究を行うとともに、政策的な手段の効果に関する研究も行った。今年度の研究により、どのような場合に、理論モデルで導出された状況が成立しやすくなるかを、数値的に明らかにすることができた。さらに、最近の持合株式の解消や時価評価会計の導入が銀行のバランスシートに与える影響を考察し、どのような形で、金融システム危機を防ぐことができるかという問題も研究した。その結果、よくいわれている持合株式買い取り機構のようなものを作るべきではなく、金融システム危機回避のためには、自社株買いに関する規制の緩和、配当・キャピタルゲイン課税の改正、銀行への再資本注入などが有効な手段であることを明らかにした。
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