研究概要 |
本研究は生活の単位である世帯の多様化という視点から生活リスクに備えるべき社会保障の機能を再検討すること,及びコーホート別世帯構造の変化に着目して生活リスクの構造を明らかにすることを目的とし,以下の成果を得た。 社会保障の全般的な状況を整理した後,貧困対策,社会保険,および所得の平準化という社会保障の有する3つの機能について検討したところ,世帯を主な対象とする貧困対策から,病気や雇用状況の変化という個人の生活リスクへの対応が中心になりつつあることを明らかにした(第1章)。次に個人に注目してどのような世帯に暮らしているかを明らかにした。1990年代の特徴として親と同居する未婚成人の増加が統計的に確かめられた。また,同居による生活保障の大きさは,同居しない場合に比較してジニ係数を0.1小さくする効果を持ち,税制や社会保障制度による所得再分配よりも所得格差を緩和する効果は大きい(第2章)。 コーホート別に世帯構造と所得構造の変化を検討したところ,高齢化は単に高齢者の比率が増加するのではなく,生活水準の向上に伴って家族による暮らし方に影響を与えることが確認できた。子と同居せず,夫婦のみあるいは単独で暮らす方が多数派になった結果,所得格差が拡大しているが,世帯構造と世帯主年齢を特定化すれば所得格差は大部分は拡大していないことが確認できた(第3章)。消費を考慮した収支構造の分析を行ったが,三世代世帯の世帯主年齢階級別パターンは夫婦と子の世帯や夫婦のみの世帯と異なっていることが明らかになった(第4章)。 国際比較という観点からわが国の世帯収支の状況を検討したところ,日本では三世代世帯が多いことからマクロの数値のみで社会保障制度に関する負担と給付水準を判断することには限界があること,所得格差の大きさも負担と給付水準を規定する要因として考えていく必要があること等が明らかにされた(第5章)。
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