研究概要 |
「イスラーム経済体制論の基本性格」において,「イスラーム経済」がイスラーム共同体の利益を重視する思想に支えられたものであるが,機械制大工業として発展した近代資本主義と接触することにより,厳密にはイデオロギー的にさまざまな問題に直面することが明らかとなった。したがって,これまでのところ,現実で実施されている「イスラーム経済化」の動きは,近代資本主義の経済活動様式とイスラームのイデオロギーに矛盾が生じない場面に限って進められている,と考えるのが妥当と判断される。 「『国民経済』概念の再検討について」では,国民国家概念よりもイデオロギー的に「イスラーム共同体」概念を第一義とする議論に対し,国境が設定されることにより,好むと好まざるとに拘わらず,国民経済が形成されてゆくことを示した。したがって,国境にまたがる共同体はあり得ず,中東諸国は国民経済として分析するのが妥当と判断される。 「人々を繋ぐもの-鋳貨と紙幣-」では,資本主義世界における基軸通貨ドルの流通根拠が,世界大の再生産活動とそれと表裏をなす国際金融の円滑な継続にあることを明らかにした。したがって,世界市場の一領域となる中東産油国の金融もまた,世界大の再生産活動とそれと表裏をなす国際金融の円滑な継続によってのみ支えられる,と考えるのが妥当と判断される。 「グローバル化の中の湾岸産油国金融システム」では,90年代後半に開発途上国,ロシアなどで発生した通貨危機を伴う経済危機は,一部の国を為替投機にさらしたが,中東産油国の金融がいまだ国際金融に対し閉鎖性を持つために世界大で移動する投機資金が中東湾岸産油国経済に大きな影響を与えることはなかったことを検証した。しかしそれらの国は,国内のいっそうの規制緩和と民営化を通じて市場経済化を進めており,今後もそれらの経済的安定性については注意深く観察を続ける必要があると判断される。
|