研究概要 |
本研究プロジェクトでは,2つの基本課題が扱われた。第一は,EUにおける産業競争力政策の体系を概括し,整理すること,そして第二は,上記のEUの競争力政策システムはいったいどの程度有効なのかを検討することであった。 本プロジェクトの中心をなす第1部においては産業全体をカバーする競争力政策の体系が扱われた。欧州委員会と加盟国政府の各レベルの政策は多様な側面を含むが,このような政策の集合体を,「政策セット」と呼んだ。第2部においては,多様な分野の競争力政策の中から特にバイオテクノロジー分野を取り上げ,その競争力政策を吟味した。 以下第1部の分析で得られた結論は,以下のように要約される。 第1に,EUの政策と加盟国の政策の相互関連は,加盟国ごとに異なっていること。第2に,EUにおける政策策定レベルは3つに区別されること。第3に,EUの欧州委員会が単独で支配的な影響力を有していると考えられる個別政策は,貿易政策,運輸およびインフラストラクチャー政策,企業政策であること。第4に,以上の結果は,EUの産業競争力政策分野での現時点での現実の姿を表したものであり,その限りで有効性を持つが,その姿が今後とも安定的に推移すると考える根拠は存在しないこと。第5に,政策手段は基本的には加盟国とEUの2つのレベルに分けられており,一般的に各国別に実施しうる手段は加盟国に,そして共同で実施した方がより効果的と思われる手段は欧州委員会に割り当てられていること。第6に,いくつかのケースにおいては,欧州委員会と加盟国のそれぞれによって実施されるべき政策手段が特定化されていること。第7に,このような政策に関する明示的な責任分担計画(=行動計画)は固有の欠陥を持つこと。以上である。 第2部の結論としては,ヨーロッパのバイオテクノロジー産業に対し,EUはさまざまな政策手段を提供していること,そして当該産業にあっては欧州委員会の政策と加盟国の政策とがかなりよく相互に調整されていること,が指摘しうる。
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