研究概要 |
本研究の目的は,栄宗敬・徳生兄弟が清末に創設し民国期に発展させた製粉・紡織の茂・福・申新企業集団を3年計画で総合的に考察することにある。この期間,研究代表者は上海社会科学院経済研究所と上海市档案館を4回訪問,史料調査と研究交流を実施し,各年1本計3本の研究論文を発表,栄家経営の原点と思われる重要な事実関係を解明した。その主な論点は次の通りである。(1)まず兄弟が所属する宗族・梁渓栄氏の明以降無錫定住と発展の経過,また兄弟の家系・家庭環境や生い立ちを確認した上で,一族の経済活動全体を展望し,その関連の中で兄弟の銭荘業の修行と独立営業の過程を究明した。(2)次に兄弟最初の近代的事業である無錫・保興麺粉廠(後の茂新,1900年設立,資本3万元)の設立の立案,有力株主の組織,資金調達,工場建設・機械設置,工場建設反対運動への対策と官庁との交渉,工場操業後の経営と問題点などを分析した結果、保興創業の中心は弟の栄徳生であり,また彼の役割は銭荘業者としての投資ではなく,各種経営資源の動員と組織化,種々の困難を乗り越えての事業遂行と実現という企業家本来のそれであることを確認した。(3)第二の事業は保興より格段に無錫・振新紗廠(1905年設立,資本30万元)であった。すでに上海で活躍していた同族の先輩格の企業家・栄瑞薫が大株主となり,かつ協力者を集めて主導権を掌握し,兄弟はその後塵を拝するのみであったが,次第に両廠の経営面において栄徳生が決定的な役割を果していた。(4)但し,経営拡大などの経営方針をめぐりその同族企業家と対立が続いたために,結局兄弟は1915年振新から離れ,独自に上海・申新紗廠を創設したが,その際に兄弟は経営権を確保するため株式会社ではなく「無限公司」(合名会社)という経営形態を採用した。
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