研究概要 |
本研究では,戦後日本の消費財メーカーのマーケティング戦略を実証的に検討し,その経営史的意義を明らかにすることを課題としていた。初年度には,戦前期のトイレタリー企業の資料調査,戦前・戦時期の流通政策の資料調査,食品産業の経営者への取材なども実施したが,検討の過程で,複数の消費財産業のなかでもトイレタリー産業に焦点が絞られ,なかでもライオン油脂の戦略について,社内資料や業界資料,関係取引店や関係者の聞き取り調査などについて,かなりの程度まで,その実態を掘り下げて分析することができた。検証の成果の概要は,次の通りである。 第1に,ライオンでは,花王販社への対抗戦略として打ち出した三強政策によって,御店との共存共栄をうたい,卸店に専門の部署を設けることだけではなく,そこを通じた小売店へのライオン製品の浸透もはかった。こうした重点の移動は,投下費用の面からの確認された。これにより,卸店や小売店の経営システムの近代化が促されると同時に,ライオンでは末端までの情報集約のきっかけをつかむことができたのである。この三強政策は,卸店にとっては,自らの信用取引で確保していた営業基盤の減殺を意味していたため,政策の受け入れに難色を示す向きもあった。 第2に,ライオン油脂では,花王へのキャッチ・アップと,外国企業の日本市場への参入という危機に対処するため,従来の物流システムの問題の洗い直しと,新システムの構想づくりに努めた。検討の結果,大都市では,物流チャネルの重複や交錯輸送の問題が指摘され,地方では,メーカーと大卸店とのチャネルの長さなどが問題とされた。そこで,共同配送センターによる「都市型」と,拠点卸店を配送の主軸とする「地方型」とに分けて物流システムを構築したが,ライオン歯磨との合併を前に見直しを迫られるにいたった。
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