外国為替市場を始めとする金融市場における価格決定過程には、次のような理論的な問題点が存在している。金融市場では、連続的に競りが行われて、価格が決定している。このような価格決定過程には需要と供給を定義する自明な時間の区切りが存在していない。そのため通常の均衡分析を適用することが難しい。また市場参加者の間で価格予想が異なること、またその異なる相場予想の読み合いが価格決定に大きな影響を持っている。連続時間取引における均衡の定義が自明でない一方で、予想の読み合いをモデル化する工夫が必要である。金融市場のミクロ構造に関する既存の研究では、これらの点は十分検討されていない。本研究ではこれらの問題点を明示的に取り扱うモデルを作成した。実証的に観察される「価格変動率と取引量」の時間帯による変化の説明は既存のモデルでは難しいが、本研究計画のモデルでは可能である。 本研究の特色とする手法は次のようなものである。(1)需要と供給の代わりに買い手と売り手の到着数を用いる、(2)市場参加者の非同質的予想を表わすreservation priceの分布関数を導入する、(3)取引価格の変動の確率的な性質を明らかにするために、取引価格をreservation priceの中央値、メディアンで近似する。 これらの手法の導入により、外国為替市場における「価格変動率と取引量」および「マーケットメーカーのbid/askのスプレッド」を対象とする2つのモデルを作成している。また「価格変動率と取引量」については5分間ごとのデータを用いて実証分析を行い、取引数量は統計的に有意に価格変動率に影響をもたらすこと、かつその大きさは時間帯により変化するという結果を得た。
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