研究概要 |
本研究の目的は,不整合相固有の素励起である位相揺らぎ(Phason)の影響が、これまで考えられていたより遙かに重要な効果をもたらすことを実証することにある.このモデルでは不整合相の出現に伴う変調波の位相揺らぎが、回折実験で観測されるべき衛星反射の強度(Debye-Waller因子)を極めて小さくするため,或る温度Tiでの衛星反射の出現は必ずしも不整合相への転移を意味せず,実際の構造変化はTiより高い温度で起こり得る事を主張している.その典型例が,各種デバイスの絶縁体基板としてまた圧電振動子として応用面でも極めて重要な物質であるSiO2(水晶)である.しかしこの問題自体は(変位型)不整合相転移一般にあてはまる基本的問題である. 本研究の成果の概要は次の3点である. [1]低波数ラマン散乱強度の変化の測定:高温相であるβ相ですでに不整合相が発生するならば,ソフト化するフォノン分枝(C_<44>TA分枝)の分散関係に変化が現れるはずであり,2次ラマン散乱強度の温度異存に変化が現れることが期待される.実際にTiより約30K高い温度からその積分強度およびlineshapeに異常が現れる事が見いだされた. [2]分子動力学(MD)計算によるSiO2(水晶)の3倍周期構造の出現の証明:上記のモデルが正しければ不整合相は(観測されている30倍に近い長周期でなく)3倍周期に近い構造が,β相と思われている温度で出現するはずである.このことを第1原理計算より得られたTsuneyukiポテンシャルを用いたMD計算を用いて明らかにした. [3]弾性ヒンジ(蝶番)モデルによる不整合相のダイナミクスの研究.誘電体の相転移の特徴は、原子団が剛体に近いクラスタとして回転的変位をすることにあることに注目し,この特徴を生かしたモデルをたて計算機simulationによって不整合相での構造の変化のダイナミクスを一般的に解析した.また回転的自由度が負のポワソン比を与える可能性を示した. これらの結果により,単純な平進構造を持つ通常な結晶に比べ,周期的変調を受けた構造(不整合相)を持つ相での物性には変調の位相揺らぎが大きな影響をもたらしていることが明らかになった.
|