研究概要 |
現在行われているカーボンナノチューブに関する研究では,試料の製法が,母材の希薄気流中における放電によるものが殆どである.従って試料の長さはミクロン程度に限られており,実用面から重視される機械的強度の測定には不適当である.本研究では石英管内に,水熱反応により精製されたナノチューブ片を石英管内に真空封入し,それを高温加熱後急冷すると同時に引き伸ばしてチューブを作製し,その臨界抗張力を簡単な方法で測定した. 先ず化学的純度の高いナノチューブは,田路らによる水熱化学処理によって作製した.この試料の細片を内径2mm外径5mm程度の石英管の中に挿入し,石英管の両端は,ガスバーナーで真空に封じ切る.石英管を管外部よりバーナーで徐徐に加熱し約1250℃まで温度を上昇させると,カーボンは赤熱し,やや軟化した状態となる.加熱状態を見計らって素早く加熱中の石英管を外気中に取り出すとともに,両端より引っ張る.急冷された石英管は冷却速度次第で,外径50〜100ミクロン程度の可撓性に富んだ繊維となる. こうして得られた石英管に引っ張り荷重を加え,切断時の荷重とカーボン束の直径の関係をプロットしたところ,カーボン束が細くなるにつれ,臨界張力が急激に増大することが判った.この増大傾向は,石英管を急冷するとき,カーボン束が,半径方向に圧縮され,その単結晶性が増し,欠陥密度が減少することによるのではないかと思われる. 石英細管の中に真空封入されたカーボンナノチューブ束は加熱-急冷引っ張りにより,単結晶性を大きく失うことなく40トン重/mm^2程度までの高い抗張力を有する細い繊維とすることが可能であることが示された.石英被覆はこの繊維材料の900℃までの耐熱性,耐酸性を兼備し,将来,過酷な環境での構造材料として,有用なことが期待される.
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