研究概要 |
強相関電子系の典型物質である遷移金属酸化物のなかに混合原子価状態を持つ一群の物質がある。これは電荷の自由度に関する振る舞いが極めて特異的であるため、実験的にも理論的にも非常に大きな関心を集めてきた。本研究では、トレリス格子構造を持つα′相バナジウムブロンズα′-NaV_2O_5、擬1次元構造を持つバナジウムブロンズβ-A_<0.33>V_2O_5(A=Li,Na,Ag,Ca,Sr)やβ′-Cu_xV_2O_5(x=0.65)、更には最近発見された新型物質Bi_xV_8O_<16>などに注目し、電荷秩序化、電荷秩序化を伴った金属絶縁体転移、圧力誘起超伝導、電荷と軌道の同時の秩序化を伴った金属絶縁体転移などの起源の解明を目指して研究を行った。本研究で得られた代表的な研究成果を以下に列挙する。1.クオータ・フィリングのトレリス格子t-J模型の電子状態を研究し、α′-NaV_2O_5の光学伝導度スペクトルの異常から相転移温度以上での大きな電荷のゆらぎの存在を示した。また電荷ゆらぎの大きい系におけるスピン系の磁気応答を明らかにするため、新型量子モンテカルロ法のプログラム開発を行った。3.β相バナジウムブロンズの電荷秩序化を伴った金属絶縁体転移とそれに起因する異常物性の解明を進めた。特に、この系の相転移がセルフドーピング機構による金属絶縁体転移であるという提案を行った。そして、これを最も簡単に実現する模型としてクオータフィリングの非対称梯子型ハバード模型を提案し、その電子状態を平均場近似や密度行列繰り込み群の手法などを用いて詳しく研究した。3.関連物質として幾つかの有機導体やPrBa_2Cu_4O_8におけるCuO2重鎖を取り上げ、その電荷秩序化や光学伝導度の異常の起源を明らかにした。また、金属絶縁体転移が電荷と軌道の秩序化と同時に起こる新型物質として最近発見されたBi_xV_8O_<16>に関し、基本模型の提案を行い、可能な電荷および軌道の秩序化パターンを提案した。
|