研究概要 |
超流動^3Heの超流動転移は,スピンゆらぎすなわちパラマグノンを媒介とする引力相互作用によるとするのが定説であるが,最近のエアロジェル中の超流動^3Heの実験では,高圧までA相が出現せず超流動転移機構について再検討の必要性が生じている.エアロジェル中の^3Heでは,転移温度や超流動密度が抑制されており,エアロジェルが不純物として働いていることを示唆している.しかし,現段階では,均一分布不純物モデルを用いた理論は,NMR,捩れ振り子,超音波吸収などの実験を統一的に説明することが出来ず,不純物モデルの見直しが必要であり,また,エアロジェルが超流動転移に与える影響を調べる必要がある. 本年度の研究では,エアロジェル中の^3Heの超音波伝播に対する不純物効果について調べた. 実験では,不純物が存在するにもかかわらず,超音波の吸収の大きさは純粋な液体の場合と同程度である一方,吸収の温度依存性は純粋な液体と大幅に異なっている.散乱体であるエアロジェル分子が固定されていると考えると,音波の吸収はきわめて大きくなり,実験に対応しない.我々は,^3He準粒子が散乱されるときのエアロジェル分子の反跳効果を取り入れることで,吸収の実験値の温度圧力依存性を説明することに成功した.これによって,音波伝播に関するエアロジェルの不純物効果を明らかにすることが出来た.現在超流動相での超音波伝播の理論を展開中である. 超流動相の音波の実験では音響インピーダンスの測定がよく用いられる.音響インピーダンスには境界効果が重要であり,境界効果に関する理論も平行して研究した.
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