研究概要 |
CoO_2平面とThCr_2Si_2型SrCu_2層S_2を有する新規な層状遷移金属オキシ硫化物(Sr_2Cu_2CoO_2S_2,I/4mmm)の物性と発現機構を探求し,以下のような知見を得た.(1)本物質はネール温度T_N=200Kのp型反強磁性半導体である.(2)140K(=T_t)以上では,磁化率(χ)は,K_2NiF_4型反強磁性化合物に見られるような,2次元反強磁性相関が強く現われたブロードなピークを示す.(3)140K〜200Kにおいて,高効率粉末中性子散乱(NPD)実験により観測される磁気ピークは,K_2NiF_4型類似のCoO_2平面の磁気配列によるものであるが,140K以下では,反強磁性構造が2次元的から3次元的なものへ変化している.(4)初透磁率の温度微分(dμ/dT)曲線のT_t近傍にキンクが観測される.(5)このキンクは,圧力をかけると,大きく高温側へシフト(dT_t/dP=13.5K/kbar)し,3次元反強磁性構造が高圧力下では安定であることを示唆している.(6)T_t以上の電気伝導性は最近接間のホッピング伝導による.(7)光電子分光測定・クラスター解析によれば,Cu_2S_2層のCuイオンの価数は1価的(Cu^+;d^<10>)であり,CoO_2平面は強相関電子(d電子間クーロン反発力:U=5eV,p-d電荷移動エネルギー:Δ=4.2eV)であることから,Sr_2Cu_2CoO_2S_2の磁性は,Cu_2S_2層ではなく強相関電子系CoO_2平面に起因している.(8)CoO_2平面へCuを40%以上ドープすると,200K以上で金属化し,系が金属に近づいていることを示唆している.したがって,Sr_2Cu_2(Co,Cu)O_2S_2はZaanen-Sawatzky-Allen電子相図において,強相関電子系金属の近傍に位置していると言える.今後,2次元反強磁性相関が強く残っていると予想されるSr_2Cu_3O_2S_2等の全置換体における量子機能開拓やその物性制御要因の解明が新しいCu_2S_2型ブロック層をもつ新規高温超伝導体や層状磁性体等の開発につながるものと期待できる.
|