研究概要 |
本研究では,動的分子場理論(DMFT)を拡張して,スピンゆらぎの自己無撞着繰り込み理論(SCR)をもとり込んだ,強相関電子系にも適用可能な統一理論を開発した。まず,DMFTに現れる1不純物問題を解くための,改良型の反復摂動論を定式化した。これを元に,局所動的帯磁率と一般化された動的帯磁率を求め,SCR理論と同様の磁気モーメントの大きさに関する条件を課すことによってスピンゆらぎを取り込んだ理論を定式化した。この理論は量子臨界点近傍においてはSCR理論と同等になるが,強相関に伴う効果,特に有限温度・有限エネルギーでの物質固有の構造などを考慮することができる。これを単バンドHubbard模型に適用して実際に計算を行い,確かに機能することを示した。また,改良反復摂動法を軌道縮退のある場合へと拡張した。さらに,スピン揺らぎの理論として有力視されている「2粒子自己無撞着理論」をAnderson不純物に適用して,この理論が強相関極限で予想される小さなエネルギースケールを再現できないことを見出し,これを改良すると,結局われわれが提案した「統一理論」に行き着くことを示した。 つぎに,近藤絶縁体の研究を進め、特に,これまでスピンの揺らぎの見方のみによって研究されてきたFeSiを電子相関の立場から見直し,光学伝導度の温度変化が多体効果から来ていることを明らかにする計算を行った。また,最近,近藤絶縁体の熱電能がすぐれた特性をもつことから注目されており,スピンの揺らぎが重要であることから,特にYbB_<12>とFeSiの熱電能について研究した。FeSiについてはバンド計算で求められている状態密度を用い,これまで用いてきた.2-バンド模型に,正孔がわずかに含まれていると仮定すると,実験をよく説明できることがわかった。YbB_<12>については,同様の計算では高温側で実験と合わず,強相関効果が必要である事を明らかにした。
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