研究概要 |
近接場レーザー分光は,自由空間の伝搬光では得られない特徴をもつ,原子の運動や状態を2次元的に制御し操作する新しい手法をもたらす可能性をもつ.これは,光近接場が光と物質の結合モードであるという性質によりもたらされる. 本研究では,誘電体表面近傍に発生するエバネッセント波の作る,光学ポテンシャルにおいて2次元のレーザー冷却原子の格子を創製し,光と原子の相互作用における,広い意味での共振器量子電気力学効果としての,新奇な量子光学現象を探究することを提唱し,このために,必要とされる基本的な近接揚分光技術の開発と,光近接場における光子と原子の相互作用の量子力学的側面を研究する基礎となる,量子光学理論の構築を行った.本研究では,特に交差して伝搬するエバネッセント波の重ね合せで発生する,局所的な回転電場を原子のスピン状態制御に利用できる,新しい光近接場光ポンピングを提唱し,実験的にそのような局所回転電場が存在することを,微小誘電体プローブによる散乱実験によりはじめて明らかにした.この過程で,安定にそのような回転電場パターンを発生できる光学系と,微小誘電体球プローブおよび先鋭化光ファイバープローブ,および冷却CCDカメラを応用した散乱光の超高感度偏光分析装置を開発した.誘電体表面近傍での原子のスピン状態観測を行う手法として,エバネッセント波を用いた,スピン選択的共鳴2光子イオン化分光法を確立し,さまざまな改良によって,Cs-D_2線における10カウントレベルの分光計測に成功した.この技術を,蛍光面付きマイクロチャンネルプレートおよび冷却CCDカメラからなる,イオン化顕微鏡に拡張し,予備実験において,Cs-D_2線の超微細構造の顕微観測と分光計測の両立に成功した. 理論的基盤として,本研究で導入した検出器モードに基づいて,エバネッセント波を含む,近接電磁場の第二量子化理論を確立し,これを応用して,任意の次数の励起多重極子の放射特性の解析を行い,一般化された共振器量子電気力学効果を明らかにした.
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