研究概要 |
2年間に渡り,ポリスチレン薄膜(PS),ポリ酢酸ビニル(PVAc),ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を対象として,高分子薄膜のガラス転移とα過程のダイナミクスを誘電緩和・体積緩和スペクトロスコピー法により調べた.それぞれの高分子について,以下に研究実績をまとめる. PS:先ず,膜厚の低下とともに誘電損失のプロファイルがブロードになるのがわかった。この結果より、ガラス転移温度が低下するはα過程の緩和時間の分布が広くなることに対応していることがわかった。体積緩和の測定により、ガラス転移温度近傍ではα過程の緩和時間の膜厚依存性が高温領域と比較して、より顕著になることが明らかとなった。このことはガラス転移温度に近づくにつれて増大するダイナミクスの特性長の存在を考えることにより、説明された。 PVAc:周波数100Hzでの誘電率虚部のα過程によるピーク温度T_αはPS薄膜の場合とは異なり,12.4kから23.7kの範囲で分子量依存性は示さなかった.この結果より,PVAc薄膜でのガラス転移温度は薄膜になるほど低下し,その膜厚依存性はここでの分子量範囲では分子量依存性を示さないことが期待される. PMMA:40Hzでの誘電損失のα過程によるピーク温度T_αの膜厚依存性を測定した.この結果,T_αはバルクからある臨界膜厚までは一定値を取るが,よりも薄膜では急激な低下を示すことがわかった.それに対して,40Hzでの誘電損失のβ過程によるピーク温度比較的大きな膜厚から,T_βの低下が観測された.そして,T_αが急減な減少をはじめる臨界膜厚で,T_βの膜厚依存性も大きく変化することがわかった.このT_αとT_βの顕著な膜厚依存性を高分子鎖の閉じ込め・協同運動性の観点から議論した.
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