研究概要 |
大気運動をシミュレーションする回転円筒水槽実験において流体粒子の3次元ラグランジュ運動を長時間追跡してそのカオス的解析をするのが本研究課題の目的である。定常傾圧波動に対しては、我々は実験と解析をして菅田・余田(1994)の数値シミュレーションによるカオス的解析と良く一致する結果を1998年にすでに示している(Tajima et al,J.Meteor.Soc.Japan,1999)。今回は、ハドレー流に対して延べ200時間を越える追跡実験をした。その結果、Robinson(1959)の理論及びWilliams(1967)の数値シミュレーションの結果を確かめ、更にカオス的特徴を得ることができた(Tajima et al,J.Atmos.Sci.,2000)。ラグランジュ的観点から大気運動を調べることが特に重要な対象として、成層圏においてオゾンを極に運ぶ大気運動や、極渦周辺の大気運動が知られている。今回は更にこれらの運動を回転円筒水槽実験で再現し調べることを試みた。中緯度対流圏のロスビー波を再現する従来の回転円筒水槽実験では水深全体に半径方向に温度差を与えているが、今回は底から水深全体の20%にあたる高さにのみ半径方向に温度差を与え、さらに観測水の水面を暖めることで下層に対流圏にあたるロスビー波の流れ、上層に成層圏にあたるハドレー流の流れを作ることに成功した。第一に、南半球で起こるドリフトする対流圏波動の成層圏への伝播に当たる実験をするため、ベータ効果に相当する半径方向の傾斜を底に入れて波数5、4、3についてロスビー波の上層への伝播について調べた。その結果、波数の小さい3の波のみが高く伝播することを確かめた。さらに、夏の成層圏は波動の伝播がないことに当たることを実験で確かめた。北半球で山岳地形によって生ずる定在する対流圏波動の伝播に当たる実験をして波数5、4、3、2について調べた結果、ドリフトする波動の場合と異なり波数2のみがベータ効果を示した。しかし、この実験では波動が定常でない兆候が見られ、この結果は確かめ直す必要がある。本研究課題の結果をすでに論文にまとめJ.Atmos.Sci.に投稿した。
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