研究概要 |
本研究は,日本のデイサイト溶岩流を対象に行われた.それらは,第四紀の溶岩ドーム(雲仙普賢岳の新焼溶岩と平成溶岩,大山弥山溶岩ドーム,焼岳山頂溶岩円頂丘)および中新世の水中溶岩ドーム(島根半島桂島)などである.また比較のために,組成の異なる玄武岩質〜安山岩質溶岩(伊豆大島1986溶岩,富士山古期溶岩,御嶽火山,八ケ岳火山)についても検討をおこなった.それらの石基組織の検討と空隙の観察を主としておこなった.その成果は以下の3点にまとめられる. 1 急斜面上に流動・定置した溶岩には機械的な過程で生じた空隙が存在している.空隙はダクタイルなマグマの破壊によって生じたものと,ブリットルな状態での破壊によって生じたものとに分類される.それらの空隙の生じた溶岩の部位に関する検討から,デイサイト溶岩の流動はダイラタンシーのモデルで説明される. 2 デイサイト溶岩に見られる空隙の多くは一種のキャビテーションにより発生した.溶岩が急な斜面を流動する際の内部歪みにより,粘弾性のマグマに空隙ができる.そのため局所的な減圧部で,強制的なマグマ溶存揮発性物質の発泡が誘発され,さらに圧力の回復による空洞の崩壊が起こす衝撃で崩壊→火砕流の発生にいたる.このことが急勾配では溶岩の流動が妨げられることの原因となる.さらに加えて,揮発性物質の沸騰によってマグマ中の含水量が低下することも粘性を増加させる一因となっている可能性もある. 3 水中で溶岩ドームが形成した場合には,火道から上昇してくるマグマの急速な冷却のために,バンド構造が形成されることがある.このバンド構造はマグマの冷却と分化作用に起因する化学組成の変異によって形成されている.またこのバンド構造をもつ岩石の石基組織はドーム構造と調和的である. 4 デイサイトは水中で冷却するとハイアロクラスタイトを形成する.ハイアロクラスタイトは,成長するドームの外縁部において作られる場合が多いとされてきたが,デイサイトの場合には,冷却と体積収縮に伴って岩体内部に外水が侵入することによって破砕が内部へと進行する過程で形成される場合が多く,これを侵入的ハイアロクラスタイトと呼び一般化を試みた. なお,上記3の研究に関連して,信州大学理学部地質科学教室所有の蛍光X線分析装置による微量元素の検量線を作成した.
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