研究概要 |
本研究は,メルトと溶け残りマントルとの相互作用のメカニズムを理解し,メルト組成の改変プロセスを解明することを目的に行われた。主にニュージーランドのダンマウンテンオフィオライトを構成するレッドヒルズ超苦鉄質岩体を対象に,岩石の野外での産状や岩石学的検討を行った。さらに鉱物の微小領域における微量元素組成に基づくマグマ組成改変プロセスを議論した。得られた知見は以下のとおりである。(1)レッドヒルズ超苦鉄質岩体は,ダナイトを主体とするマントル-地殻漸移帯に相当する部分とハルツバージャイトを主体とする溶け残りマントルの部分に大別される。これらの岩石に含まれる単斜輝石のコンドライト規格化希土類元素組成に基づくと,マントル-地殻漸移帯を構成する岩石中の単斜輝石は,岩石種に依存し,軽希土側にエンリッチしたパターンを示すものから相対的に涸渇するパターンを示すものまで多様性を持つことが明らかとなった。一方,岩体下部の溶け残りマントルの単斜輝石は,軽希土側に極端に涸渇する特徴を示す。以上のことから,上部マントルにおいて,臨界溶融に似た過程で発生した分別溶融メルトが,集積することなく個別に漸移帯付近まで上昇し,最終的に積分されて玄武岩質マグマが形成されるというプロセスを提唱した。(2)溶け残りマントル中の単斜輝石を用いて,その微量元素組成を検討した。その結果,コンドライト規格化した微量元素存在度パターンは海洋性ペリドタイトのものに類似することが明らかとなった。さらに,希土類元素とインコンパティビリティが似るTi, Zr, Srの挙動について考察を行った。これらの元素は岩石の涸渇度の上昇に伴い,インコンパティビリティの類似する希土類元素に対して,負のアノマリが相対的に小さくなる傾向が認められた。これは,Ti, Zr, Srが部分溶融度の変化に伴い,単斜輝石/メルト間の分配係数が変化することにより説明できると結論づけた。
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