研究概要 |
マグマ溜りの境界層の構造(温度・組成・粒度分布・結晶度・組織変化)とその進化を明らかにするために,降下テフラ中の全斑晶の累帯構造の形成過程を解析した。箱根火山を起源とする東京,軽石に含まれる斑晶鉱物は上位の層準ほど多く,マフィック鉱物も後期の噴出物ほど多い。斑晶鉱物のうち,斜方輝石,単斜輝石の累帯構造と晶出温度,ガラス包有物の組成から,高温,中間温度,低温の3つのマグマの存在と混合が判明した。これらのマグマは東京軽石噴火直前には,2層となって成層していた。噴火初期には,上位のマグマから噴出を始めた。高い噴出率のため,より低粘性の下位マグマが,粘性の高い上位のマグマに引き上げられ,火道中でマグマ混合が起こり,火口から放出された。 次に,マグマ溜りの境界層そのものが結晶化した貫入岩体について,オマーン・オフィオライトの拡大軸ステージのマグマ溜まりルーフゾーンと,沈み込みステージの島弧深成岩体について調査した。ルーフゾーンは上位から粗粒ドレライト,ペグマタイト状ガブロ,塊状ガブロ,葉理構造を有するガブロから成る。メルトレンズの底で結晶化した塊状ガブロの集積結晶はマッシュの中に埋もれていく過程で圧密を受け,結晶の定向配列を獲得するとともに,粒間メルトが絞り出される。集積結晶の圧密・再配列の結果,閉鎖空間となった粒間にトラップされた残液からは結晶リムが晶出し,顕著な正累帯を形成した。一方塊状ガブロはメルトレンズ底部でマッシュに埋もれることなく,最後まで粒間のメルトがメルトレンズ本体と平衡を保った状態で固結したために,ほとんど累帯構造を形成しなかった。これに対して,島弧深成岩体は不均質で,結晶マッシュへの岩脈やシートの貫入とマグマ混合,マッシュの再溶融などの複雑な現象が長期間にわたって繰り返された。このような産状は赤城火山の湯ノ口軽石の噴出物の解析から推定されたマグマ溜りイメージと一致する。
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