研究概要 |
1.試料の採集 伊豆弧の17地域(富士〜青ヶ島)の火山から,溶岩試料(主として玄武岩・玄武岩質安山岩)を合計168採集した。これらの地域は沈み込むスラブの深さ150km〜210kmをカバーしている。 2.主成分元素,微量元素の分析 顕微鏡観察により比較的未分化で新鮮であると認められた56試料について,蛍光X線分析法を用いた主成分元素の分析,グラファイト炉原子吸光法を用いたBa, Rb, Sr, Pb, Be, Liの分析,ICP発光法を用いたB, Nb, Zr, Yの分析を行った。これらの元素については比較のため,千島弧,カムチャッカ弧,マリアナ弧の試料についても分析を行った。また,イオンクロマトグラフを用いた希土類元素の分析法を確立した。 3.結果と考察 伊豆弧においては,火山岩のB/Nb, Pb/Nb, Ba/Nb比が,スラブ深度の増大とともに減少する明瞭な島弧横断方向の変化を示す。マントルウェッジに対するスラブ起源のフルイドの寄与は,スラブ深度の小さい所ではB≒Ba>Pb≒Rb>K>Li≒Be,スラブ深度の大きい所ではBa>Rb>Pb≒B≒K>Li≒Beである。同様の傾向が千島-カムチャッカ弧でもみられることから,この傾向は島弧一般に成り立つと考えられる。これらのデータは,スラブ深度が増大するとともに,放出されるフルイドの組成が変化していることを示している。また,この組成変化を説明するためには,スラブ中に脱水分解の温度圧力条件の異なる複数の含水鉱物が存在し,しかも,脱水が全体としては連続的に起こらなくてはならない。 カムチャッカ弧最北部の沈み込み-トランスフォーム境界付近では,島弧横断方向の組成変化に異常が認められることから,他の場所よりも多くの水がスラブととともにマントルに持ち込まれていると考えられる。
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