研究概要 |
岩石組織の定量的評価はまだ初期的段階にある.それは,構成鉱物や全岩の化学組成を記述する岩石学と,岩石の運動学的変数を記述し力学的条件を求める構造地質学の両分野の境界領域の問題であるからである.しかし,固体地球のダイナミックな変遷を理解するための情報は,岩石組織から多く得られるはずである.このような問題意識のもとに,本研究では室内実験による岩石組織の再現と,天然の岩石組織の定量的な解析を目的とした.前者は有益な結論を導くには至っていないが,後者についてはメソスケールからマイクロスケールに及ぶ,天然の岩石組織を解析することができた.個々のテーマどうしは必ずしも関連ないので成果を以下に列挙する. 1)メソスケールの火成岩に見られる層状構造が,拡散に律速されるLiesegang Ringsに見られるようなスペース則を満たすことを明らかにし,その成因に大きな制約条件を与えることができた. 2)剪断センスの指標として用いられているザクロ石のスノーボール構造の成因を新たな機器および岩石学的な手法によって明らかにした.従来この構造の成因には対立する説があり,顕微鏡下でみられる微細構造の解釈と,力学的シミュレーション,および室内実験に基づいていた.微細組織の記載に加え,単結晶-多結晶の区別,3次元的形態,組成累帯構造を明かにし,この長い議論に終止符を打つことができた. 3)地殻下部では岩石が部分融解する可能性があることは指摘されていたが,その証拠を捉えることは必ずしも成功していない.本研究でカソードルミネッセンスを観察することによって,岩石が部分融解している組織を特定することができた.
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